香りで自分流を見つける
香りがつなぐ、すてきな出会い
和ークショップに講師としてご参加されたきっかけは何ですか?
主宰者である浅井さんがお好きな着物と、わたしが行ってきた和の香りを通し、共通の知人を介してお知り合いにさせていただいたのがはじまりです。
わたしが、ほかで講師をしたワークショップに浅井さんがいらっしゃって、ぜひ『和ゆらり』でも、ということで今回お誘いいただきました。
わたしはひとりで参加したのですが、居心地がよかったので、ほかの参加者の方々とつくった香りについていろいろと楽しくお話ができ、うちとけることができました。今井さんからご覧になった和ークショップの感想は?
とても和気あいあいとした雰囲気でしたね。
それにみなさん好奇心旺盛で、ただ楽しいだけでなく、とっても真剣でした。
和ークショップに参加された人たちに一番知ってほしかったことはなんでしょう?
感覚を抑えることなく、感性を大切にするからこそ楽しいということ。香りをつくるということは、とっても自由なことです。
人と比べていい香りというより、つくる時間を含めて、自分が楽しむことができる香りづくりが大切ですね。
それぞれみんな違うところが、和の香りの魅力
基本の香原料は同じものを調香したのに、人によって違う香りに仕上がって盛り上がりました。
人によって違う香りに仕上がるのには、食の嗜好も影響しているかなと思います。 たとえば、女性で辛いものが好きな人や日本酒が好きな人は、わりと辛めの香りにまとめる方が多いですね。男性は、強くて辛い香りになる傾向が高いようです。 以前、越前守(えちぜんのかみ)が調香した梅花(ばいか)という香りを、記録にしたがって調香したことがあります。梅花というからには、梅の花が咲いているのを想像していたのですが、どうやら花ではなく、梅の木のごつごつした木肌感、もしくは古木のようなものをイメージしたのでは? と思うような、男らしい香りだったことに驚いたことがあります。 同じ銘(名前)でも、イメージによって調香は変わり、できあがる香りも違います。それでも、できあがった香りは、その銘を感じさせてくれる。これが、香りにおける表現の面白さでもあると思います。
今井さんは、普段どんな香りの楽しみ方をされていますか?
普段は時間にこだわらず、使いたい時に合わせて、販売している自作のお線香や練香、試作のためし薫き(だき)、市販のものや、香木(こうぼく)など、いろいろと香りを楽しんでいます。
香木とは、伽羅(きゃら)や白檀などのことで、小さく削ったものを香炉(こうろ)で薫(た)いて、香りを楽しみます。
もちろん、勉強のために薫いている時もありますよ。きちんとした香りを知ることは、調香には必要不可欠。表現するためには、みずから体験してインプットすることも大切ですから。
お好きな香りはなんですか?
香木では、やはり、だれをも虜にする伽羅が好きですね。
伽羅は、沈香(じんこう)という香木の中でも最高級の香りと言われているのですが、実はこの香りの成分は木の樹脂によるもの。1本の沈香の木に、何らかの理由で傷が付き、その部分を覆うために、たまたまできた樹脂の部分が香るのです。
木そのものがよい香りがする白檀とは違い、自然から生み出された、偶然の産物ともいえる、貴重な香りなんですよ。近年は需要に対して供給が追いつかず、さらに貴重さが増しています。
身近で面白い香りの話ということで、ジャコウネコ コーヒー(*)のお話は興味深いものでした。
(*ジャコウネココーヒー:コーヒー豆を食べたジャコウネコの排泄物に含まれる、未消化のコーヒー豆を丁寧に洗浄して焙煎したもの。)
ジャコウネコ コーヒーは不思議ですね。猫の体内を通ったコーヒー豆に香りが強く残るのですから。豆が入っている袋までとってもすてきな香りがします。仕入れができる量が決まっているそうなので、機会があればぜひ飲んでみてください。飲み終わった後、口からは芳しい花のような香りがするのに、カップからはまさに麝香(じゃこう)の香りがするんです。麝香は、麝香鹿の香嚢(こうのう)です。まさにフェロモンの塊。
ちなみに、女性のフェロモンは洗えば落ちるらしいのですが、男性のフェロモンは洗ったくらいでは落ちないとか・・・。もしかすると、男性が加齢臭を気にするのは、そこからくるのかもしれませんね(笑)。
自由に楽しむ、じっくり楽しむ和の香り
和の香りの魅力とは?
香りを調香するということが伝わって、1300年以上と言われています。 ということは、それぞれの時代で人々は、その時代ごとの楽しみ方で香りを楽しんできたということではないでしょうか。
伝統文化だと、お作法をとても大事にしていると思われるかもしれませんが、香りづくりには、いわゆる所作のお作法はありません。調香する際、よく混ぜるようにとかはありますけど(笑)。香りは自分を演出するもの。その表現はあくまでも自由に、楽しんでいいということを知っていただきたい。
ただ、香りをつかう上では、まわりの人たちへの心づかいをお忘れなく。 和の香りは、基本的には間接的に身に纏うものなので、強過ぎる香りに気付かずに、残り香をふりまいてしまうことは、比較的少ないと思います。日本ならではのすばらしい考えである、「他者への気づかい」ができるのが和の香りでもありますので。
また、どんなことでも、良いもの、本物にふれることはとても大事なことだと思います。なので、自分で体験できる『和ゆらり』のような和ークショップは、そういう意味でも、とてもいい場だと思います。
ともあれ、和の香りの最大の魅力は、自由に楽しむことができるということ。 みなさんもぜひお試しください。
最後に、今井さんにとってのゆらり時間とは?
ニュートラルになるという意味で、音もなくて、香りもなくて、ただただ静かなところでぼーっとする時間。それがわたしにとってのゆらり時間かな、と思います。
< 今 井 さ ん の お 気 に 入 り の 品 >
お香立ていろいろ「踊る埴輪」
「『踊る埴輪』は、雑貨店ではなく、なんと国立博物館で購入しました。」(今井さん)
香りの道具といえば、かしこまった品が出てくるかと思いきや、埴輪!
お値段もリーズナブルだそうです。まさに楽しみ方は自由ですね♪
レポート ◎ mio